新型コロナウイルスによる嗅覚(におい)障害について

2022.01.02

 嗅覚(においの感覚)や聴覚などのいわゆる5感の中では比較的軽視されがちな感覚かもしれません。パラリンピックでも嗅覚障害者用の種目はありません。しかし、嗅覚がないと食事はおいしくないでしょう。ワインや日本酒を飲んでも、その繊細な味は楽しめないことでしょう。ガス漏れや腐った食べ物にも気が付きにくいです。つまり、日常生活に与える影響は少なくないのです。また、嗅覚とパーキンソン病や認知症との関連も以前から指摘されていますし、最近では、嗅覚障害がある人は、嗅覚が正常な人と比べて5年後の死亡率が高いことが報告されています。

 この、嗅覚が最近非常に注目されています。そうです、新型コロナウイルス感染です。新型コロナウイルスにかかると、40%~75%の人が嗅覚障害を合併すると考えられています(現在、爆発的な流行が危惧されているオミクロン変異株では、嗅覚障害の割合が非常に少ないようです)。当院も発熱患者さんを、一般の患者さんと区別して、発熱外来で診察していますが、私は必ず嗅覚障害の有無をお尋ねしています(オミクロン株では、あまり意味がないかもしれません)。

 この新型コロナウイルス感染による嗅覚障害ですが、早い人では発症後5日から2週間程度の早期から回復傾向になりますが、1か月たっても完全に回復しない人が半数程度にみられるようです。半年たっても戻らない人も一定数おり、また、嗅覚の回復によらず通常とは異なった焦げたニオイなどの変なにおいを感じる人もいるようです。新型コロナウイルス感染の後遺症 (Long COVIDと呼びます)の1つなのです。

 治療ですが、早期であればステロイドの内服や、ステロイドの点鼻などに一定の有効性があると考えられます。また、漢方薬も推奨されるでしょう。

 最近では、嗅覚リハビリテーションが有用と考えられています。これはドイツから最初に報告された方法です。元の方法では、バラ、クローブ、レモン、ユーカリの精油のにおいを1日2回各10秒ずつ嗅ぐ方法が採用されています。

 どの方法にも有効性に限界はありますが、諦めずに治療を続けることが重要と考えています。