食物によっておこる免疫反応にはいくつかの種類がありますが、ここでは食べたあとに、湿疹や喘息症状などが引きおこされる皆さんにもおなじみの食物アレルギーについて説明します。
皮疹や蕁麻疹などの皮膚症状や、口やのどの粘膜の腫れ、腹痛や下痢、喘息症状、不安や倦怠感、血圧低下などが起こることがあります。症状がひどい場合にはアナフィラキシー、さらにアナフィラキシーショックになることもあります。
乳幼児期に最も多く、年齢があがるにつれて頻度は低下します。成人の食物アレルギーの頻度は低いですが、一方で専門の医療機関も少ないため適切な指導が受けられない患者さんもいます。
年齢によって、原因となる食物の頻度が変わります。乳児では鶏卵(たまご)、牛乳、小麦の順に多く認められ、徐々に魚卵やピーナッツの頻度が増し、入園前では果物によるアレルギーが多くなります。その後、甲殻類や魚類の頻度が増えます。20歳以上では小麦、魚類、甲殻類、果物の順に頻度が高いといわれています。
乳児から幼児早期には食物アレルギーの頻度は高いですが、年齢とともに自然に食べられるようになるお子さんも多くみられます。一方で、小学校に入っても食物アレルギーが持続する人もいますので、そのような場合には給食などの際に誤って摂取してしまい、アナフィラキシーが起こるといった問題があります。
診断に最も重要なのは、病歴の聴取です。すなわち、症状が起こる前に摂取した食品をしっかりと記録しておくことが重要になります。その上で、血液検査でアレルギーの原因を調べたり、皮膚テストを用いて原因物質を推測していくことになります。ただし、血液検査が陽性でも実際には食べられる場合も少なくありません。最近ではより診断精度が高いと考えられているアレルゲンコンポーネントを調べる血液検査も徐々に普及してきましたが、まだ保険適用で調べられる項目はラテックスアレルギーを含め10種類のみです。今後は、徐々に広がっていくと思われます。最終的に食物アレルギーをしっかり同定するために、食物負荷試験で実際に食べてもらう場合もあります。また、どの程度まで安全に食べられるかを検査する意味合いで食物負荷試験を行う場合もあります。
実際には、アナフィラキシーなどの強い症状が出現する場合には、原因となる食物を避けていただくことが多くなります。症状への治療としては皮疹のみであれば抗ヒスタミン薬の内服、喘息症状には気管支拡張薬なども効果がありますが、必要によってはアナフィラキシーに備えて、エピペン®を携帯していただくことをおすすめします。
最近では食物を少量ずつ摂取することにより、アレルギー反応を徐々に軽くしていく経口免疫療法という方法もありますが、あくまでも研究段階の治療であり、専門施設に相談する必要があります。当院では、アナフィラキシーのリスクが高いため、経口免疫療法までは行いません。食物アレルギーのご相談には応じますが、専門的な治療が必要な場合には、専門病院をご紹介いたします。
口腔アレルギー症候群は口腔粘膜に生じる食物アレルギーの仲間であり、花粉症と関連しています。一番多くみられるのは、シラカバやハンノキの花粉に反応して花粉症状を起こす人が、モモやリンゴ、サクランボなどを食べると口がかゆくなったり、唇が腫れたりするアレルギーを生じます。これは、シラカバやハンノキ花粉に含まれるアレルギーの原因物質(アレルゲン)とモモやリンゴに含まれるタンパク質の構造が似ているために、どちらにも反応してしまうことが原因です。果物だけでなく、野菜やナッツでも症状がおこることがあります。
病歴を参考に、原因を推測し、最終的には原因と疑われる果物や野菜を使った皮膚テストを行って確認します。皮膚テストはプリックテストという方法で行い、果物の果肉を直接針ですくい取る、あるいは果物の汁を腕にたらして、皮膚を針でチクっとさして皮膚の反応を観察します。チクっとする程度でそれほど痛くありませんので心配いりません。15分から20分後の皮膚反応によって結果を判定します。
アレルギーの原因によっては、加熱すれば食べられるものもあります。例えば、モモやリンゴでは生のまま食べると症状が起こりますが、モモのコンポートやリンゴパイなどなら食べられる場合が多いです。ただし、アレルゲンの種類によっては加熱しても分解されずにアレルギー反応を起こすこともあります。医師とよく相談してください。もし、加熱しても食べられない野菜や果物の場合には、どの程度の症状が起こるかにもよりますが、基本的には摂取を避ける必要があります。残念ながら、誰にでも有効なお薬はありません。
アナフィラキシーは、アレルギーの原因物質(アレルゲン)などを体に取り込むことにより、アレルギー症状が全身におこり、生命の危機になりうる過敏反応のことを言います。さらに、血圧がさがる、意識がなくなるなどの状態に陥ると、アナフィラキシーショックと呼びます。新型コロナウイルスのワクチン接種でも話題になりましたよね。
具体的な症状としては、皮膚には蕁麻疹や血管性浮腫、気道には、喘息症状や鼻炎症状、消化器症状として、下痢や腹痛などが複数の臓器にまたがって起こります。例えば、子供さんが牛乳を飲んでアナフィラキシー症状になる、鎮痛剤を飲んで蕁麻疹が出て、呼吸がゼーゼー苦しくなる、あるいは、ハチに刺されて意識が遠くなりアナフィラキシーショックになるなど、皆さんにも身近な状況ではないでしょうか。
アナフィラキシーになったら、急に体位を変えることは避け、ゆっくり横になり足を上にあげる必要があります。嘔吐をしている場合には、横向きになるなどの対応が必要です。以前にアナフィラキシーを起こしたことがあり、エピペンを処方して携帯している方は、アナフィラキシーが最重症になる前に、エピペン®というアドレナリンの入ったお薬を太ももに注射しましょう。周りにいる人がアナフィラキシーの人に注射してもかまいません。その上で、救急車を呼びましょう。
食物アレルギーや、ハチ毒アレルギーなどでアナフィラキシーを起こしたことがある人は、是非ご相談ください。
左右対称性に広がるアレルギー性炎症による慢性湿疹で、乳児期あるいは小児期から発症し、一部の症例では成人まで湿疹病変が継続します。皮疹の特徴は、年齢によって異なります。
ステロイド軟こうはアトピー性皮膚炎の治療の基本となります。以前は、ステロイド恐怖症から民間療法に走る患者さんも多くいらっしゃいましたが、最近では、ステロイド軟こうを適切に使用することが、良好な皮膚状態を維持するのにかかせないことが周知されるようになってきています。不適切にステロイド軟こうを使用すると、皮疹の状態が安定しません。ステロイド軟こうの強さにはランクがあり、最も強いI群のランクから最も弱いV群の5段階に分けられています。通常、II群~IV群の軟膏を皮疹の重症度と部位によって使いわけることが重要です。1日2回病変部に塗布するのが基本ですが、改善してきたら1回に減らす、さらに改善してきたら、使用間隔を週に3回、週に2回、週に1回と徐々に延ばすことも可能で、この治療法はプロアクティブ療法と呼ばれます。皮疹の改善とともに急にステロイド軟こうを中止すると、すぐに皮疹がぶりかえしてくるため、却ってステロイド軟こうの使用量が増える結果になりますので注意しましょう。
ステロイド軟こうとは異なる機序で皮疹を抑制します。ステロイドのIII群からIV群くらいの強さの薬になります。特に顔面や頸部の皮疹で、ステロイドの使用量を減らしたいときに選択します。2歳未満の小児や授乳中の婦人には使用できません。
局所の副作用として、灼熱感や紅斑などが出ることがありますが、通常、皮疹の改善とともに消失することが多いようです。刺激が気になるに場合にはご相談ください。びらんや潰瘍面には使用できませんのでご注意ください。
JAKキナーゼという、アトピー性皮膚炎にかかわる炎症物質の産生に必要な物質のシグナルを抑制することで、炎症を抑える新しい塗り薬です。このお薬もびらんや潰瘍面には使用できません。
難治性のアトピー性皮膚炎の治療に用いる免疫を抑える薬です。
重症の成人アトピー性皮膚炎のお薬です。このお薬は重症の方にしか適応がありません。このお薬は重症気管支喘息や鼻茸のある慢性副鼻腔炎の患者さんにも保険適用となっています。当院では、アトピー性皮膚炎の治療にこのお薬は使用していませんが、気管支喘息や鼻茸のある慢性副鼻腔炎については症例を選んで使用しています。
上記に示した治療薬の他に、保湿剤を用いた日ごろのスキンケアは非常に重要です。定期的に毎日、十分量の保湿剤を用いてスキンケアを継続してください。かゆみが強い場合には抗ヒスタミン薬も服用します。また、汗をかいた場合には、入浴やシャワーによって汗を適切に洗い流すことが重要です。入浴は38-40℃くらいのお湯につかるのがよいでしょう。石鹸や洗浄剤は皮膚に刺激が少ないものを適切に使用してください。しっかり洗い流すことも重要です。繰り返しになりますが、入浴後はしっかりスキンケアをしてください。
蕁麻疹(じんましん)は、膨疹(皮膚が赤く盛り上がったようになる状態)が全身のいずれかの部位に出現する病気です。蕁麻疹の原因は、食べ物、日光、汗、お薬などさまざまで、水と触れることによっておこる蕁麻疹もあります。一方で、原因がわからない特発性と呼ばれる蕁麻疹が多くみられます。発症してから6週間以内を急性蕁麻疹、6週間以上を慢性蕁麻疹とよびます。より皮膚の深い部分でおこる蕁麻疹は血管性浮腫と呼ばれます。唇があれたり、まぶたが腫れたりしますが、時に息の通り道である気道がはれることもあり、窒息することもあるので注意が必要です。
蕁麻疹の治療は、抗ヒスタミン薬と呼ばれるアレルギー性鼻炎などにも用いられるお薬がよく使用されます。1錠で効果が得られない場合には2錠内服する、あるいは、2種類の抗ヒスタミン薬を飲んでもらうこともあります。抗ヒスタミン薬では、十分にコントロールできない場合には、ロイコトリエンと呼ばれる炎症物質を抑える抗ロイコトリエン薬や、胃薬でも使用されるヒスタミンH2受容体をブロックするお薬を使うこともあります。どうしても治療が難しい場合には、飲み薬のステロイドや免疫抑制剤を使用することもあります。
最近のトピックスとして、抗ヒスタミン薬による治療に抵抗する難治性の蕁麻疹にはアレルギーの抗体であるIgEを抑制する抗IgE抗体(ゾレア®)が使用できるようになりました。すべての人に有効なわけではありませんが、特発性慢性蕁麻疹の特効薬として利用されています。ただし、多少高額であるため、相談して使う必要があるでしょう。